『万葉集』中、クレナイをよむ歌
→ベニバナ
長歌
桃の花 紅(くれなゐ)色に にほひたる 面輪のうちに
青柳の 細き眉根を 咲みまがり 朝影見つつ をとめらが ・・・ (19/4192,大伴家持)
級(しな)照る 片足羽(かたしは)河の さ丹(に)塗りの 大橋の上ゆ
紅の 赤裳すそ引き 山藍(やまあい)もち 摺れる衣(きぬ)服(き)て ただ独り い渡らす児は
若草の 夫(つま)か有るらむ 橿(かし)の実の 独りか寝らむ
問はまくの 欲しき吾妹が 家の知らなく (9/1742,読人知らず)
・・・ をとめらが 春菜つますと くれなゐの 赤裳のすその
はるさめに にほひひづ(埿)ちて かよ(通)ふらむ・・・ (17/3969,大伴家持)
・・・やまび(山傍)には さくらばな(桜花)ちり
かほとり(顔鳥)の ま(間)なくしばな(鳴)く 春の野に すみれをつむと
しろたへの そで(袖)を(折)りかへし くれなゐの あか(赤)もすそ(裳裾)ひき
をとめらは をも(思)ひみだれて きみ(君)ま(待)つと うらごひすなり ・・・
(17/3973,大友池主)
・・・ 吾妹子が かたみ(形見)がてらと 紅の 八塩に染めて
おこせたる 服(ころも)の襴(すそ)も とほりてぬ(濡)れぬ
反歌
紅の 衣にほはば 辟田(さきた)河 絶ゆることなく 吾とかへりみむ (19/4156;4157, 大伴家持)
天地の 遠き始めよ よの中は 常無きものと 語りつぎ ながらへきたれ
天の原 振りさけ見れば 照る月も 盈ちかけしけり あしひきの 山の木末(こぬれ)も
春去れば 花開(さ)きにほひ 秋づけば 露霜負いて 風交え もみち落りけり
うつせみも かくのみならし
紅の いろもうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の咲み 暮(ゆふべ)かはらひ
吹く風の 見えぬがごとく 逝く水の とまらぬごとく
常もなく うつろふ見れば にはたづみ 流るる涕 とどみかねつも
(19/4160,大伴家持。世間の無常を悲しぶる歌)
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短歌
紅の 花にしあらば 衣袖(ころもで)に 染め着け持ちて 行くべく念ほゆ (11/2827,読人知らず)
外にのみ 見つつ恋せむ 紅の 末採む花の 色に出でずとも (10/1993,読人知らず)
をかみがは(雄神川) くれなゐにほふ をとめらし
葦附(あしつき)とると 湍(せ)にたたすらし (17/4021,大伴家持)
謂ふ言の 恐(かしこ)き国そ 紅の 色にな出でそ 思ひ死ぬとも (4/683,坂上郎女)
春はもえ 夏は緑に 紅の 綵色(しみいろ)に見ゆ 秋の山かも (10/2177,読人知らず)
紅に 衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき
(7/1297,読人知らず。第4句、別訓に「著(しる)くにほはばや」)
紅の 薄染め衣 浅らかに 相見し人に 恋ふるころかも (11/2966,読人知らず)
紅の 深染(こぞめ)の衣 色深く 染みにしかばか 遺(わす)れかねつる (11/2624,読人知らず)
紅の 深染の衣 下に着て 上に取り着ば 事成さむかも (7/1313,読人知らず)
紅の 深染の衣を 下に着ば 人の見らくに にほひ出でむかも (11/2828,読人知らず)
呉藍の 八塩の衣 朝な旦な 穢(な)れはすれども いやめずらしも (11/2623,読人知らず)
紅に 深く染めにし 情(こころ)かも
寧楽(なら)の京師(みやこ)に 年の歴ぬべき (6/1044,読人知らず)
紅に 染めてし衣 雨ふりて にほひはすとも 移ろはめやも (16/3877,豊後国の白水郎)
くれなゐは うつ(移)ろふものそ つるはみ(橡)の
な(馴)れにしきぬ(衣)に なほし(若)かめやも (18/4109,大伴家持)
黒牛がた(潟) 塩干の浦を 紅の 玉裙すそひき 往くは誰が妻 (9/1672,読人知らず)
黒牛の海 紅にほふ 百磯城の 大宮人し あさり(漁)すらしも (7/1218,読人知らず)
まつらかは(松浦川) かはのせ(瀬)はや(早)み くれなゐの
も(裳)のすそ(裾)ぬれて あゆ(鮎)かつ(釣)るらむ (5/861,読人知らず)
立ちて念(おも)ひ 居てもそ念ふ 紅の 赤裳すそ引き い(去)にしすがたを
(11/2550,読人知らず)
紅の 襴(すそ)引く道を 中に置きて 妾(われ)や通はむ きみ(君)や来まさむ
(11/2655,読人知らず)
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